裁判や法律のこと

2024年03月04日

Tort must not pay (2)

(判例時報2576号)2023年3月29日 日本弁護士連合会主催で
民事司法を利用しやすくする懇談会共催のシンポジウムが開催されました。

2022年9月の違法収益移転制度の創設を求める立法提言と
        慰謝料額の高額化を求める立法提言に基づくディスカッション。

(加害者が経済的利益を得ない場合の)慰謝料の高額化は難しい問題です
ディスカッションでは セクハラや 医学部の入試差別が言及されていますが
窪田充見教授も 安い高いというだけの水掛け論になってしまうとおっしゃってます。

慰謝料が低いということについて
わたしは この30年間の「家計」の景気が影響しているような気がします。

多くの裁判官が扱う 加害者が経済的利益を得ない場合の慰謝料といえば 不貞
わたしの感覚ですが 訴訟で被告になるのは 不貞の相手方が女性のパターン。
( 一般的に 夫は 妻の不貞相手の男性は 許してしまうのか・・・
  妻の不貞相手の男性は 訴訟になる前に示談してしまうのか・・・ )

そして 不貞の訴訟は ほとんどが和解で終了します。

今 中核を占める 10年~20年目の裁判官にとって 「家計」の景気は不況です。
和解は 被告(不貞の相手方の女性)の経済力が前提になるため
昔の判決の相場である200~300万円なんて 分割でも ほぼない。
100万円前後で和解が成立することが多い。

そうなると たまに判決になるとして 昔の相場を見てはいても
昔は昔。 今は今。 という 感覚があって 慰謝料が低額化してる気がします

不貞だけじゃなく SNSなど個人間の名誉毀損なんかも同じ気がします。 
そして これが セクハラなど 他の類型にも影響しているのではないか。

ディスカッションでは 
名誉毀損における賠償額が急速に高額化したという評価がなされているとあるのですが

『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(松尾剛行著・勁草書房)
では 裁判例の分析によると中央値が 2008~2009年が60万円
                  2010~2011年が50万円
                  2012~2013年が50万円
                  2014~2015年が45万円
とされてるんですね。


窪田充見教授は 理論的な面で
   慰謝料は 差額説で考えるべき性質のものではない
   交通事故の慰謝料基準は 他の類型で 参考にするべきではない
ということをおっしゃっています。
ひとつひとつ示唆に富んでいるのですが 判例時報をご覧ください


judge_nori at 22:09|PermalinkComments(0)

2024年03月03日

Tort must not pay (1)

(判例時報2576号)2023年3月29日 日本弁護士連合会主催で
民事司法を利用しやすくする懇談会共催のシンポジウムが開催されました。

2022年9月の違法収益移転制度の創設を求める立法提言と
        慰謝料の高額化を求める立法提言に基づくディスカッション。

違法収益移転制度の創設は 窪田充見教授も交えて むっちゃ勉強になります。

  所有者が 利用する意思も能力もない土地に 第三者が 車を止めていた。
  所有者が3年ぶりに土地を訪れて このことを知ったので 損害賠償の請求をした。

この場合 出ていけという請求が認容されることは当然なんですが
お金を請求することができるのか??

損害賠償って 損失を0に戻す制度だから
所有者に経済的な損失がなさそうなので 問題になるわけです。
窪田充見教授が 学生の頃の教科書では お金は請求できないと書かれてる・・・
差額説のドグマといっていいかもしれません。
 
今なら 所有者が 認識していれば 相場の料金を請求したはずだから
これを得られてないことは損失だと解釈し 相場の料金を損害と認めるだろう・・・

  所有者が 利用する意思も能力もない土地に 
  第三者が PCR検査場を設置して 多額の利益を得ていた。
  
今でも 所有者が 第三者の多額の利益を支払うよう請求したところで 
裁判所は 認めないと思います。
第三者が上手くやった多額の利益まで 所有者の損害と解釈する理屈がたたない・・・
(不法行為ではなく 不当利得で考えても
 確かに 第三者は利得してる しかし 所有者にその損失が考え難い と思うのです)

しかし 所有者は損害を被ったわけじゃないけど 第三者のやり得じゃないか??
ここに日弁連の違法収益移転制度の創設を求める立法提言が意味を持ってくる。

現代では 違法アップロードで多額の広告料を得ている加害者や
     名誉毀損や侮辱で印税や広告料を得ている加害者に 意味を持つわけです。

さらに 不法行為の抑止を考えると 利益を吐き出させるだけではなく
懲罰的損害賠償制度の導入という話に進んでいきます
(日弁連でも議論されたようですが 慎重意見も多数あり 提言に至らなかったとか)

窪田充見教授によれば ドイツもフランスも 刑事とちがって 
民事の損害賠償って損失を0に戻す制度であると。
しかし ドイツでは 1990年代に 不法行為の抑止のため 
最高裁判所が 高額の賠償を認めたんだとか。

また フランスでは 懲罰的損害賠償制度の検討がされているそうです。

被害者が賠償により利得しないよう 控えめ認定することにこだわるあまり
加害者の利得を軽視していると指摘されている点は 示唆に富みます。


このディスカッションには 日本経済新聞社の新聞記者もパネリストとして参加してて
その方も 窪田充見教授も
名誉毀損で慰謝料を請求される金額が高くなって萎縮する報道取材があっても
それは全く問題ない。 本来萎縮すべきものが委縮するだけのことだ。
と おっしゃっていることが勉強になりました 









 







 
  



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2024年03月02日

口頭弁論のウェブ化の意味

3月1日 民事訴訟で 口頭弁論期日に 当事者双方が ウェブ会議で参加すれば
裁判所に出頭しなくても 手続ができるようになりました ( MBS NEWS

わたしの周りでは 改正法が施行される3月1日までは 
口頭弁論をウェブ会議でするような期日指定をすることはできないと考えてたので
まず ウェブ弁論準備手続を法廷でやり そこで5分後に口頭弁論をする期日指定し 
続けて ウェブ口頭弁論を行いましたが 
大阪高裁では 改正法施工前からウェブ口頭弁論を指定してたんですね
(それか うちらと同じように 当日 ウェブ口頭弁論を指定するんだけれども
 あらかじめ マスコミに計画を情報提供しておいたのかな)

それにしても 大阪高裁のウェブ口頭弁論の法廷撮影を見て そうか~って思ったのは
三脚で固定した立派なカメラ・・・
うちらは これまで支給されていた小さなUSBカメラだけでやろうとして
小さな法廷でしか ウェブ口頭弁論はできないねって 配置に苦労していましたが
ちゃんとした三脚とカメラを買ってくれって言えばよかった・・・
氷河期世代×公務員の貧乏性が出てしまった感じです。

 
民事訴訟のIT化は 
フェーズ1(法改正しなくても PC等のハードをそろえればできることをする段階)
フェーズ2(システム開発しなくても 法改正すればできることをする段階)
を経て 2026年5月25日までに 
訴状提出や送達を電子化したり 記録を電子化する フェーズ3に入ります。

2020年2月3日~2022年7月4日 地方裁判所で
電話会議の代わりに ウェブ会議が使えるようになって(フェーズ1)
2023年3月1日 弁論準備手続に当事者双方がウェブ会議で参加できるようになり
今回 口頭弁論でもウェブ会議が使えるようになったのです(フェーズ2)

だから
は 誤読を誘う上手い見出しですね

は 正確な見出しですが 記事に
「令和10年6月までに▽訴状をオンラインで提出することができるようになる」
ってあって 令和8年(2026年)の間違いでは?と思うんですが・・・

そんな中 讀賣新聞
「民事裁判に「ウェブ口頭弁論」導入、審理短縮化へ…法廷でモニター通じてやり取り」
という見出しで これまでの経緯なんかにも触れ
東京地裁の裁判官 新潟県弁護士会の弁護士 山本和彦教授にもインタビューして
口頭弁論のウェブ化の意味にも言及し
読みがいのある記事だなあと思いました


judge_nori at 16:02|PermalinkComments(0)

2024年01月28日

使用貸借かぁ・・・(2)

使用貸借というのは 
書類のやり取りなく 大したお金のやり取りなく 成立し得る 
まことに 日本人らしい契約のため
裁判実務では よく問題になる類型の事件です。

使用貸借というのは 
貸主が 借主に 目的物の使用収益を許容する債務を負うだけのため
借主が その程度に見合った支払しかしなくていいし(必ずしも無償というわけじゃない)
その程度の債権しか 貸主に求めることができないわけです。
( 貸主に対し 目的物の修繕を請求できないとか
  貸主が 目的物の所有者を兼ねている時 目的物が売買された場合
  新所有者に対し 債権を主張できないとか
  賃貸借より 様々な点で弱い )
だから 貸主の権利濫用という一般条項で 紛争になってしまう・・・・・・

民法(債権法)改正で 一応議論はされたみたいだけど 
ケース・バイ・ケースで解決すればいいじゃん ってことで 
立法的解決がされないままになってしまった・・・・・・


で 現場は困っているわけですが 例えば 
貸主・所有者が目的物を売った時 
借主が目的物を 買主・新所有者に返還しなきゃいけない場合
貸主・所有者は 目的物の使用収益を許容する債務の不履行になるのだろうか?

使用貸借が終了した・解除された時 借主は目的物を返還するしかないのか?
目的物の返還ではなく 賃貸借に転換するという選択肢はないのか?
(民法593条は 使用貸借を「契約が終了したときに返還をする」と定義してますが)
借主が 無償又は低額で 貸主の建物に居住しながら
貸主が 有償で住居を賃借し続けなければいけないのか?
(「正直不動産2」第2話も 貸主経営の会社が倒産し お金に困ってる事案です)


特に問題となる 返還の場面について 論文では
   「裁判例においては、特殊な事件を除けば、
    土地の使用貸借においては20年から30年の経過により、
    建物の使用貸借においては10年を超える期間の経過により
    貸主の明渡請求を認めている例が多くなっているといえそうである。」
                 (判例タイムズ1449号64頁)とあります。

日本人らしい使用貸借。
もう少し柔軟に考えることができたなら 貸主・借主がハッピーになれるだろうに


judge_nori at 21:33|PermalinkComments(0)

2024年01月27日

使用貸借かぁ・・・(1)

NHKドラマ「正直不動産2」1月16日放送の第2話「思いを伝える」は
  所有者Aが 居宅・敷地を Dに売ろうとしたら
  入院を拒む老人Bと 彼を介護する若者Cが居住していた。
  BとCを救うため 
  弁護士が (BとCには)『使用貸借』権があるから
  『一方的にあの家を売ることはできない』と主張して 
  AとDの契約が御破算になり めでたし めでたしという内容です。

原作のストーリーは好きですが ドラマ化で そのまま放送されちゃうなんて・・・


まず 使用貸借だろうが 賃貸借だろうが 居住者がいても
所有者が 居宅・敷地を『売ることはできない』なんてことはない・・・
(現実には 買主が 居住者がいることを嫌がって
 売買契約を拒否したり 売買価格が大幅に下がるかもしれないけど
 居住者の代理人弁護士が 売買不可なんて表明したら 問題ですよね)

次に 賃貸借なら 居宅・敷地が売買されても 買主に賃借権を主張できるけど
「売買は貸借を破る」原則の例外である借地借家法が適用されないから
使用貸借なら 買主に使用借権を主張して 立退を拒否することはできない・・・
(現実には 法的に立退が完了するまで コストがかかるので
 所有者側は コストをできる限り小さくするために 交渉するべきだけど)

漫画でも ドラマでも AとDの契約が御破算になった理由は 
買主Dが 被介護老人を追い出したなんて噂を恐れたこと なので問題はありませんが
BとCの弁護士の「使用貸借が成立するから売買できない」という通知が原因だったら・・・

ただ ドラマでは 退去通告を出しただけで 
所有者が 業者に依頼して 居住者CとBの荷物を運び出してますけど
使用貸借が成立しようがしまいが 自力救済は違法です。
ドラマでは 道徳的に問題あるからって感じで 有耶無耶に中止してましたが
所有者から委任状をとろうが 明らかに違法です。


ところで 所有者Aの奥さんであり 若者Cのお母さんである女性は
輸入家具の仕事のため世界中を飛び回るAのため 息子Cと舅Bの面倒を見つつ
遊んでばっかの弟に代わり 倒れた実母の介護のため 毎日のように東京・栃木を往復し
過労のため亡くなったものの 庭を美しく手入れして夫Aを待っていたという
原作の漫画にない ドラマらしいエピソードで ハッピーエンディング・・・
この女性は女の鏡ですね。 この女性の爪の垢を煎じて飲まなきゃ・・・

judge_nori at 22:22|PermalinkComments(0)

2024年01月20日

裁判手続における侮辱

2016年5月 無免許で自動車を運転中 電柱に衝突し 助手席の男性を死なせました。
この自動車は 勤めている会社の社長から提供されていたわけですが
社長に責任が及ばないよう 相談を受けた弁護士は 運転手に対し
警察等には 社長が運転手の無免許を知らなかった等と説明するように 
そそのかしたとして 2018年10月15日~11月5日 逮捕・勾留され
2023年8月30日 最高裁判所で 犯人隠避教唆の有罪判決が確定しました。

この弁護士は 逮捕・勾留中 検察官から取調べを受けるわけですが
黙秘権を行使していました。

黙秘権というのは
  話したくないことは 話さない権利があります。
  話したくない時は 話したくないと言ってください。
  但し 話したことは 自分で有利になると思って話したことも
  裁判所が あなたに不利に評価することもあるので 
  話す選択をした時には 注意して話してください。
という憲法上の人権ですね。

この検察官の この弁護士に対する 取調べ中の映像が公開されています ( YouTube
(22日間における56時間22分間の内 13分29秒にまとめたものです。
 特に問題な場面を取り上げたのか 他に問題な場面はなかったのかは不明です。
 時系列も前後しています。)

「・・・トイレがなんだ。 行きますじゃなくて 行きたいです でしょ。・・・
 取調べ中断して すいませんでしたとか言うんじゃねえの。 普通。 
 子供じゃないんだから。 あんた被疑者なんだよ 犯罪の。」 
         (2018年10月23日16時13分~14分43秒
                     18分45秒~19分30秒)
「・・・どうやったらこんな弁護士が出来上がるんだ。
 そういえば弁護教官聴いてなかったな弁護教官。誰?弁護教官。
 聴きに行こうかなあ。どういう教育してんだって。何でこんなことになったんだって。
 そうだ調べりゃわかるから ちょっとやるか。法廷に立ってもらうか。・・・」
         (2018年10月27日15時45分40秒~46分50秒)
「・・・そん時に 僕ちゃんは強いから何とかしてやるっつって・・・闘ったって
 勝ち目無いわけじゃないですか。んで 僕ちゃん強くないし。弁護士として。
 これはもう資格 諦めてください。整理つけてくださいよ。」
          (2018年10月28日15時30分03秒~41秒)
「なんか あなたの中学校の成績見てたらあんまり数学とか 理科とか
 理系的なものが得意じゃなかったみたいですねえ。・・・
 何かちょっと論理性がさあ 何かずれてるんだよなあ」
          (2018年11月1日14時26分45秒~27分06秒)

現在 憲法が黙秘権を保障していることの意味は
捜査官が 取調べと称して 侮辱することは許されない ということではないか
という国家賠償請求訴訟が係属しているようです ( 空気を読まずに生きる


対立する相手から 自分に有利な発言を引き出すのは難しいものです。
とはいえ 民事裁判の公開法廷で 弁護士の反対尋問を眺めていると 
議論(意見を問う)  誤導  つぶやき(質問ではない) は 間々見られ 
威嚇(依頼者へのパフォーマンス?)も 無い訳では無いので
検察官が 密室で 被疑者を相手に しないはずがないんだけども・・・・・・


2008年5月にスタートした裁判員裁判もあって
2006年7月から 取調べは一部 録画されるようになりました。
しかし きっかけは 2003~2007年の志布志事件だったと思います。
この事件は 弁護人の取調べへの立会いに 影響するのではないでしょうか


judge_nori at 11:32|PermalinkComments(0)

2024年01月17日

これこそがITの力だ・・・

土地家屋調査士法人COLORSの関連会社(株)COLORS
そこで開発されたアプリ『らくらく相続図』が すごい!!

PDF化した戸籍をアップロードすれば OCR文字解析し 
被相続人を選択したり 相続順位のパターンを選択したりすると
相続関係説明図や 法定相続情報(相続前に死亡している人は「男」「女」とだけ表示)
を作成してくれて PDFやテキストデータで取得できるのです。

もちろん 文字解析の誤りなんかを手入力で修正できるし
     被相続人の登記簿上の住所 最後の住所 相続人の住所も入力できるし
     新しい関係者も追加できる。
だから これまで事務員が時間をかけて作成し 専門家がチェックしていたプロセスを
PCがぱっと作成し 事務員の一次チェック 専門家の二次チェックと 短縮できる。 

さらに 被相続人の出生から死亡までの戸籍情報を時系列にして
    アップロード済みの戸籍が存在する時期を表示することで 
    戸籍の連続性の欠如を知れるのです。


相続が絡む訴訟とか 遺産分割調停とかなら 
原告・申立人が相続関係図を作成するものですが
相続放棄なんかは 弁護士も 司法書士も 関与しないことが多く
裁判所書記官らが 相続関係図を作成しなければいけません。
(配偶者や子が相続放棄をする場合は それほど難しくありませんが
 親が申述する場合 配偶者や子がいないのか 相続放棄済みか チェックが必要。
 きょうだいだったら。 孫だったら。 甥や姪だったら。 
 そもそも相続人なのかどうかチェックするためです。
 まあ 地裁・高裁・最高裁が 
 予めしておいた相続放棄も有効とする判決をしてくれるのならいいんだけど)

最近は 相続放棄の申述が 色々な事情から激増しており
相続関係図を自動作成してくれるなんて 
「いいことたくさん(IT)」って 正にこのことでは!!
裁判所も こういうアプリを家裁に導入してくれればいいのに・・・・・・

ITって いいものですね


judge_nori at 23:06|PermalinkComments(0)

2024年01月11日

公開のコスト

山形地方裁判所で 昨日 刑事裁判中
自己研鑽のために傍聴していた裁判官が 傍聴席の入口に鍵をかけてしまったようで
裁判が 45分間ほど 非公開状態で進められてしまったため 
審理をやり直したそうです ( さくらんぼテレビ

以前に 送達のコスト という記事を書きましたが
裁判所が コストをかけてて 外の方々に なかなか理解されないのが
送達公開かなぁと思います。


例えば 傍聴マニアもいる刑事裁判と違って 民事裁判は 
時に1~2分で終わってしまう手続きも よくあるわけですが
たとえ当事者がそろっていても 決めた時刻になるまで じーっと待たせます。
傍聴人が現れるかもしれませんから。
現れるわけなくっても 現に現れなくっても 裁判の公開原則は憲法の要請ですから。 

昔の話ですが
被告にも弁護士がつきましたが 予め決めていた第1回期日に出頭できないため
事前に 原告の弁護士と調整して 第2回期日の日時も決めていました。

ただ 原告の弁護士は 第1回期日に出頭したので 
「訴状を陳述でいいですね。 答弁書を擬制陳述とします。 次回期日は・・・」と
1分もたたずに終わる手続でした。

原告の弁護士は 原告(会社)の担当者らしき人を連れ 10分くらい前に法廷入り
わたしも 4~5分前に法廷に入りましたが 決めていた時刻まで ただ 待ちです。
そして 始まれば 1分もたたず終了。
その時 その担当者らしき人は 「何、それ」って噴き出したんです。

まあ 当然だと思いますよね。 
傍聴人なんて来るわけないし 現に来なかったし。


当事者さえ聴きに来ることがないとわかっている 民事裁判の判決言渡しだって
裁判官と書記官が2人ぽつんと 決めた時間を待っています。


馬鹿げたコストかもしれませんが 譲れない価値なんだと思います  


judge_nori at 22:45|PermalinkComments(0)

2023年12月27日

民事判決情報データベース化の素案

昨年から法務省に設置された 民事判決情報データベース化検討会
その法制度の素案をまとめたそうです ( 時事ドットコム

以前も記事にしたけど( 民事の全判決がテキストデータ化
日本で言い渡されている年間約20万件の民事判決
ウェストロー・ジャパンでも 現在収録数約31万5000件というのですから
アクセス可能な裁判例は確かに数%です。

もちろん 類似事例を探すという法律実務家のスタンダードな使い方では
検索対象が膨大になれば ヒット数も膨大になり 情報過多になりかねない

最近こそ ウェストロー・ジャパンが独自に収集した裁判例もあるけど
多くは 判例雑誌に掲載された裁判例で その強みは解説が付されてることでした。

それが AIを使って 担当裁判官の考え方や 相手方代理人の特徴を知ったり
さらに 代理人がいた方がよい事件類型とか 分析することも挙げられています。 

また これまで判決の公開のハードルだったのは 関係者のプライバシー
原告や被告は 「原告」「被告」と表示されるけど
複数になれば 「原告太郎」「原告花子」と表示されたり
家族や従業員といった知人は 氏名が記載されることが多い。
住所 学歴 勤務先 財産といったものも 事件によっては記載され
公開する場合に 仮名処理を行う必要があって この作業にコストがかかっていました。

仮に公開した場合に 仮名処理漏れが起きていたら? その責任は?

こういった具体的な課題について 検討した結果の素案ということだと思います。

非営利の情報管理機関が 民事・行政訴訟の全判決を裁判所から取得し
基幹DBに網羅的に収録して 研究者・判例雑誌社などに有償で提供するそうですよ。

ただ ニュースでは 全然情報が足りない。
だから この素案を見てみたいんだけど 法務省のウェブサイトにはない・・・
どうやってみることができるんでしょう?
10月25日の検討会の資料のことなのかな? 


judge_nori at 23:16|PermalinkComments(0)

2023年12月21日

社労士と東大教授の問答集

東京大学の労働法の教授 水町勇一郎先生が 今年度末で退官されるんですね。
まだ56歳ということなので 定年というわけではなさそうです。

水町勇一郎先生といえば 2年前に出版された
 『詳解 労働法[第2版]』(東京大学出版会)
1520ページという 物理的にも 精神的にも凶器になる一冊です。

実務家になると 法律書は事典のようなものですが 
この本は 物理的にも 精神的にも辞書になる一冊です。  

一方 水町勇一郎先生は この本をテキストとして 
社会保険労務士さんに対する講演をされ その質問に対する回答を300にまとめた
 『水町 詳解労働法[第2版]公式読本
  理論と実務でひも解く労働法 Q&A300』 
 (日本法令)も出版されています。

よくある 学生の質問に回答するという 安いノリ・ツッコミ形式の本じゃなく 
開業社労士や勤務社労士といった様々な立場で
労働法実務に携わっている人たちの 生の質問と
水町勇一郎先生の真っ向勝負の回答は リアルで 勉強になります。

ちょうど 新型コロナウイルス禍の時期に開催されたもので
近い将来に裁判で扱うことになるかもしれない問題の現場の悩みと学者の知見。

こちらは ちょっとした読み物として 気軽に通読できます。
たぶん 学生さんは こちらから読み始めて 
適宜『詳解労働法[第2版]』を参照するのが よい使い方なんでしょうね




judge_nori at 22:01|PermalinkComments(0)